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心臓病をよく知ろう

天皇陛下が冠動脈疾患のために冠動脈バイパス手術をお受けになられ、すべてが無事終了されたことは日本国民にとってはほっと安堵したニュースでした。
東日本大震災の被災地をヘリコプターで毎週のように廻られ、その間にもご公務をされていたことを想うとかなりご無理をされていらっしゃったのではないかと思われます。 冠動脈疾患には心筋梗塞と狭心症という疾患がその代表ですが、いずれも動脈硬化を基盤として起こる病気です。動脈硬化は年齢とともに起こっていくことから神様が我々に与えられた必然であるかもしれません。
しかし、高血圧、高脂血症(最近では、高コレステロール血症だけではなく善玉コレステロールが低いことも含めて脂質異常症と呼ばれる)喫煙、糖尿病さらには運動不足に代表される生活習慣等の危険因子(リスクファクター)にさらされると動脈硬化はより進行が速くなることが多くの研究で明らかとなっています。
しかし、日本人の虚血性心疾患の死亡率は先進諸国の中で最も低いことが知られています。従って、日本人は冠動脈疾患にはなりにくいのではないかと考えるのはいささか早計であろうと考えます。久留米大学心臓・血管内科の足達教授らが行っている田主丸地区の疫学調査を見ると1958年当時の血清コレステロール値は158mg/dlであったものが、2009年には207mg/dlまで上昇していました。高血圧の治療率もこの間に10倍増加しておりました。
現在、不幸にして冠動脈疾患でお亡くなりになった患者さんの多くは終戦前、終戦直後の古来の日本食、日本人の生活を送ってこられた方です。
戦後、日本人の生活は欧米化してきたといわれており、20歳以下の子供のコレステロール値は米国よりもすでに高いといわれています。つまり、この子供たちが中高年になる頃に日本は心筋梗塞では死なないとは言えないような気がします。日本の中で最も長寿県と言われていた沖縄も2000年の調査では男性はなんと24位まで急落しました。その中でも中年の循環器疾患による死亡が増えたことが原因の一つであるらしい。思い出してください。沖縄は日本で最も早く米国風のライフスタイルになった地域です。日本人の冠動脈疾患治療を受けた患者さんの追跡調査では冠動脈疾患の再発より脳卒中の発症がより多かったことがわかりました。
つまり動脈硬化による疾患は一か所だけに起こるものではなく、他の場所にも起こる可能性を秘めていると考えなければなりません。つまり一か所だけに注目するのではなく危険因子をきちんと評価し、生活習慣を改善させるべきは改善させ、必要な薬物があればきちんと服用し、血圧、コレステロールや糖尿病をコントロールすることが全身の血管を守る最善の方法であるといえます。冠動脈バイパス術やステントを用いたカテーテル治療では動脈硬化をよくすることはありません。
私たちが行っている治療法は動脈硬化によって引き起こされた一部分を直しているにしかすぎません。全身の管理は薬物治療は必要な方には当然ですが、患者さん御自身が自らこれまでの生活を改めること、これが最も大切なことだと考えます。古くから「人は血管とともに老いる」という言葉があります。
いつかは終焉を迎えなければならない運命の中で、健康・健全であり続けることをじっくり考えてみませんか。